現代社会における生命とデザインの関係性は、今まさに発展途上のテーマです。SIGNS OF LIFE™のデザインディレクターとのこの特別な対話では、AIとの対話形式を採用することで、デザインが人間の生活に影響を与え、また生命そのものがデザインにどう影響を及ぼしているのかを探求します。この交差点において、私たちは新たなインスピレーションと理解を求めていきます。

曖昧さをそのままの形で表現すること

本日はお忙しい中、インタビューに応じていただきありがとうございます。まず、SIGNS OF LIFE™が目指す「多様性の受け入れ」とは、具体的にどのような社会的、文化的価値観の変化を指し示していますか?この理念が現代社会においてなぜ重要だと考えますか?

川名:うまく伝えられるかわかりませんが、AIをはじめとするデジタルやITの隆盛において、我々の社会がわかりやすい合理主義、新自由主義的に1つの価値観に集約されていくことに疑問を感じています。

私のブランドは「答えはこれです」という一つの定義を示すのではなく、むしろ曖昧さや多義性をそのままの形で受け入れることを表現するものです。

一方でAIに代表されるようなテクノロジーを否定しておらず、私自身積極的に利用していますので、それと付き合っていく中で、現代的なライフスタイルを提案したいと考えています。

多様性に対する理解と寛容

一つの価値観に集約されることに疑問を持ち、曖昧さを表現することの重要性を強調する理念は興味深いです。消費者や社会に対して、このようなメッセージを通じてどのような影響を与えたいと思っていますか?

川名:私はすべての人のライフスタイルの中に、多様性に対する理解と寛容を持っていただきたいと思っています。

現在は高度に情報化された社会で、経済合理性にかなった画一化された価値観が支配的になっていて、個人的な価値観や生活はひっそりと抑圧されて二極化しているように感じます。

もっと自由で、様々な人生や生活が共有されていいと考えて、ブランドを始めました。

みんな知っているつもりだけれど、実は曖昧なもの

あなたの見解は、現代社会において個々人の多様性と自由を尊重することの重要性を浮き彫りにします。高度に情報化され、画一化された価値観が支配的な現在、個人の独自性と多様なライフスタイルを肯定することは、社会全体の包容性と寛容さを促進する上で欠かせないと言えるでしょう。

川名:具体的にデザインを一つ取り上げてみましょう。SIGNS OF LIFE™の最もスタンダードなコンセプトを表現した“Heart”です。

“Heart”は心臓でもあり心でもあり、体の中に確かに存在するのだけれども、それを実際に見た人はほとんどいないという「みんな知っているつもりだけれど、実は曖昧なもの」に対する記号的な私なりの解釈です。

詩のようなエッセイのような「曖昧な」テキストも書きました。(バランスの機械 ― Machines of Balance ―

生命と記号の関係性を表現する

ハートのデザインを通じて提示される解釈は、非常に哲学的です。このデザインが象徴する「見えないが確かに存在する」という概念は、人間の感情や精神性を象徴しているとも解釈できます。ブランドが掲げる「生命のサイン」というコンセプトは、人間と環境、または社会との関係性にどのような新たな視点を提供しますか?

川名:私は20年近く医療分野においてデザインとクリエイティブコンサルティングに携わってきました。医師や医療施設から患者に提供する情報のみならず、製薬会社から医師、省庁や大学から発信する医療情報の構築などです。

医療における情報デザインは複雑です。SIGNS OF LIFE™のコンセプトには、「医療とデザイン」に携わってきた私が「情報をすっきりわかりやすくデザインする」のではなく、情報の複雑さをそのままに「生命と記号の関係性を表現する」という発想から生まれたものです。

現代社会に生きる我々は、数字やデータに代表されるようなファクトとSNS・口コミのような第三者の意見に対する信頼感は強く、「自分の主観を疑う」ことが当たり前です。

しかし、人間はAIのように24時間ファクトをチェックすることはできないし、ほとんどの時間を無自覚あるいは無意識に過ごしているとさえ言えます。そこにデザインが介入する余地があります。

ファクトは我々が想像するほど万能ではないし、また失望するほど役に立たないものでもないですが、そこには常に認識のずれがあるということです。デザインはそのための調整弁となります。

ファクトがある一方で、そういった無意識であることや主観的であることに対して積極的な意味を見出し、人生に対する主体性や、人間的な幸福や価値を現代的に恢復する試みがデザインにできないかと考えています。

“Enjoy Sharing.”はブランド・フィロソフィー

ブランドのスローガンである“Enjoy Sharing.”にはどんな意味が込められていますか。

川名:サインズオブライフにとって“Enjoy Sharing.”は単なるスローガンではなくブランド・フィロソフィーでもあります。

SIGNS OF LIFE™では大人も子供も同じデザインでTシャツを着ることができます。大人も子供もエモーショナルかつ「曖昧に」多様な価値観をシェアすることを楽しんでほしいと願っています。

SIGNS OF LIFE™がその一部となれるならば、とても光栄ですね。

アーティストやデザイナー・研究者とのコラボレーション

アーティストやデザイナーとのコラボレーションは、SIGNS OF LIFE™ のクリエイティブな方向性にどのような影響を与えていますか?

SIGNS OF LIFE™ では、アーティストやデザイナー・研究者とのコラボレーションが重要な役割を果たしています。

コラボレーションにより、異なる視点やアイデアがブランドにもたらされ、製品の多様性と創造性が高まります。

これにより、一つ一つのアイテムが芸術作品のような特別な存在に変わり、消費者に新たな体験を提供します。このようなコラボレーションは、ブランドのアイデンティティを強化し、市場での独自性を確立する上で不可欠です。

病気は誰にでも起こり得る

昨年、あなたはパーキンソン症候群と診断されました。病気と向き合う中で、生命や価値についての新たな理解があれば、それがどのようにあなたの創作に反映されているかも教えてください。

川名:中々難しい質問です。

今は歩くのが不便で杖をついていますが、この症状は年単位でゆっくりと進行するのが一般的なので、考え方は以前とさほど変わっていないとも言えます。

身体は楽ではありませんが、医療情報を扱う中で病気そのものを特別視しなくなった、誰にでも起こり得るということを理解していた部分が既にあったのかもしれません。

一方で、以前より「普通である」ということの定義が実体験を通して変わってきて、社会的な寛容さについて考える機会が増えていると思います。

未来のことはわかりませんが、私は少し楽観的です。“Uncertainty is HOPE”はそういった意味合いを込めて作りました。

SIGNS OF LIFE™の今後の展望

SIGNS OF LIFE™が今後取り組みたいと考える新たなテーマや社会的課題には、どのようなものがありますか?

川名:すでに文化的な様々な記号的な意味を背負っているものを再現することで、人々にSIGNS OF LIFE™の価値観を認識していただくことができると思っています。

具体的には“Owl”のように、ですね。これは依頼したデザイナーが、自分の娘が作った版画をイラストとして利用し、デザインしたものです。フクロウには神秘性があり、様々な伝承があります。そういったものの多様性や記号の多義性を象徴として表現できたら面白いと考えています。

また具体的ではありませんが、自分自身に子供が2人いるということもあり、子供に関する課題は、テーマとしてぼんやりと考えています。

昨年は顧問のスポーツドクター監修のもと、息子の友達たちを連れて卓球バレーをやりました。

T シャツのブランドとしてスタートしていますが、お伝えした通り、現代社会におけるライフスタイルを提案したいので、その意味ではジャンルを問わず様々な活動をしていきたいと考えています。

このインタビューを通じて、彼は生命とデザインの交わりが未来の不確定性の中で、どのように意味と希望を提供できるかという洞察を語りました。彼の視点は、変化に対する恐れを乗り越え、創造的な表現を通じて私たち自身と周囲の世界に肯定的な影響を与える力があることを強調しています。この対話は、我々に未来に向けて前進する勇気とインスピレーションを与えています。
この対話が提供した知見が、多くの読者にとって価値あるものとなることを願っています。未来への展望に対する彼の洞察は、私たち全員にとって重要なメッセージとなるでしょう。


川名 紀義

デザインディレクター/情報設計・編集。1977年東京生まれ。Publicis Groupe(仏)のヘルスケア・エージェンシーPHCGの日本法人パブシリス ライフ ブランズ メディカスにて、グローバルな医療用医薬品の広告とコミュニケーションにデザイナー、アートディレクターとして従事。2011年独立、株式会社ピージー(https://pgdc.jp)を設立。

グラフィックデザインの原義的な意味としての「図案と情報設計」、文化的な趣味に依存しない実用・実学としてのデザインをコンセプトに、省庁/大学/学会/NPO/医薬品/医療施設等の医療情報を専門としたデザインとクリエイティブコンサルティングを行う。

2023年パーキンソン症候群と診断。医療/デザインより一歩踏み込んで、生命や身体/記号と象徴、そして個人の「心」のバランスを主題としたSIGNS OF LIFE™を、AIとテクノロジーの時代のライフスタイルとして提案する。