蛇の言葉に耳を傾けるようなアイキャッチのビジュアルがとても気に入っています。蛇はアダムとイブにそうしたように、編集者に何か入れ知恵をしているのでしょうか。

医療における蛇という象徴

「アスクレピオスの蛇の杖」をご存知でしょうか。

アスクレピオスはギリシャ神話に出てくる名医であり、蛇が巻き付いた杖を持っていることから西洋文化圏では医療の象徴として扱われています。

蛇が巻き付いた杖は、病院のシンボルマークになったり、WHO(世界保健機構)のマークも蛇をあしらっております。

また、救急車には「スターオブライフ」と呼ばれる蛇とアスタリスクのような記号が組み合わされたマークが使われます。

蛇は様々な記号が人間によって象徴的に与えられた、ザ・サイン・オブ・ライフというべき生き物です。

似たものにカドゥケウスの杖もありますが、これは商業の神様ヘルメスが持っている杖で、蛇が2匹巻きついています。混同されることもあり、医療的な象徴でもカドゥケウスが見られることがあるようです。

医療分野の情報デザインに携わってきた私が、SIGNS OF LIFE™のテーマにビジュアライズするのにふさわしいように感じました。

神話における蛇という象徴

蛇は脱皮を繰り返すことから、世界各地の神話でウロボロスやティアマトなど、誕生、生まれ変わりや再生・不老不死の象徴として扱われています。日本においても、白い蛇は金運を高める所謂縁起物とされています。

一方で、我々が蛇に対して抱いているイメージというのは、生命力というよりは恐怖感であり、畏怖の念ではないでしょうか。

メデューサのような髪の毛が蛇という怪物は、まさしく恐怖の対象としての蛇です。また、エデンの園でアダムとイブが禁断の果実を食べるきっかけを作った蛇が登場しますが、この蛇は通常、人類の原罪に関連して描かれます。

様々な文化圏において、蛇は生と死の両極の象徴として扱われています。その事自体が生と死が、生命の両輪のようなものであることを示しているのかもしれません。

編集者と蛇

蛇と共にモデルを務めたのは、医学書などを扱う出版社の経営者かつ編集者です。ビジュアルはコンセプチュアルに考えていたので、所謂手足が長い見栄えがよいモデルさんを起用する気は、最初からありませんでした。

我々が扱う情報の裏側には、著者と読者だけではなく、そのあいだに介在する形で編集者もおりますが、表だっては見えてきません。メディアが発信するあらゆる情報は客観的なものを目指しつつも、誰かの、あるいは特定の集団の主観が交じることは避けられません。

今回、様々な記号の陰に隠れつつそれらを操る「顔が見えない」「不可視の編集者」を、一つの記号として表舞台に引きずり出したのは、「イメージや意見が、ある匿名の集団や個人によって作られてしまうことに対するささやかな反抗」なのか、あるいは単なる意地悪なのかもしれません。

編集という職能と、蛇という神話を現代的な寓話として対比して表現したいと考えたのです。

撮影時、蛇を連れてきていただいたオーナーによると「彼は蛇の扱いが抜群に上手い。こんなに落ち着いている蛇は初めて見た」と言われたので、相性もとてもよかったようです。

デザイナーと蛇

撮影のため、実際のヘビに触ってみましたが、少しひんやりとし、ウロコの感覚が心地よく、思いのほか可愛らしいもので、フォトグラファーと「可愛いな!」と興奮していました。

今回、撮影させていただいたメインビジュアルには虹色の光沢を持つとても美しい蛇「ニジスケ」を起用させていただきました。

そして、私は巳年生まれです。医療とデザインという、先人から受け継がれてきた細い蛇の道を通ってきた私にはよく似合います。

巳年生まれに特徴があるのかざっとウェブメディアを調べてみましたが、あまり共通する意見は見当たりませんでした。

次の巳年は2025年と遠くないので、そこまでにSIGNS OF LIFE™が多くの方の目に触れて、飛躍することを願って、一足先に蛇はいかがでしょうか。